「犯罪を猟る男」(横溝正史)

何と当時は「江戸川乱歩作」

「犯罪を猟る男」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短編コレクション①」)柏書房

「横溝正史ミステリ短編コレクション①」

「犯罪を猟る男」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

「恐ろしき四月馬鹿」角川文庫

いい気分で飲んでいる
戸田の前に現れた一人の青年は、
Dビルディングで起きた
殺人事件について語り始める。
夕刊では須崎という男が
逮捕されたとあるが、
真犯人は別にいるのだという。
戸田はその事件の、
死体の第一発見者だった…。

横溝正史の初期の短篇作品です。
大正15年に発表された本作品、
横溝若書きの作品だけあって、
動機や凶器の設定、
目撃証言の謎解きなどに
十分とはいえない部分があり、
ひいき目に見ても
傑作とは言いがたい作品です。
しかし本作品の構成と、
その成立過程を比較すると、
面白いものが見えてきます。

〔主要登場人物〕
戸田五郎
…Dビル4階に婦人服専門店を構える
 若い事業家。
謎の「青年」
…Dビルの殺人事件を推理する。
 二十代前半の美男子。
須崎
…Dビル・エレベーター係。
 容疑者として拘束されている。
遠藤
…Dビル三階に事務所を持つ男。
 須崎の行動について証言。
大森
…Dビル四階に事務所を持つ男。
 犯人らしき男について証言。

〔事件の概要〕
Dビル四階トイレで
若い女の死体が発見される。
凶器は未発見。
女の所有していた首飾りを
持っていたことなどから、
須崎が犯人として逮捕される。

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名前も与えられていないその「青年」は、
真犯人が戸田自身であることを
「推測」として指摘し、姿を消します。
警察に通報するでもなく、
真実を追究したいという
自身の渇望のためだけに戸田と接触し、
自身の「推理」の是非を確かめたのです。
何という自己顕示欲の強い
「探偵」なのでしょう。

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この「自己顕示欲の強い若き探偵」、
そして殺人現場の「Dビル」とくれば、
連想せざるを得ないのが
乱歩作の「D坂の殺人事件」です。
実はこの2点以外にも、
探偵が飲食店にふらりと現れて
事件に関わる設定や、
被害者加害者がどこから入って
どこから出て行ったか分からない
トリック等、似ている点が多いのです。

乱歩の「D坂」は、本作品の前年
大正14年に発表されています。
もしかしたら横溝が
乱歩作品を模倣した!?
いやいや、そんなことはありません。
それどころか実は本作品、
何と当時は「江戸川乱歩作」として
発表されていたのです。

横溝は乱歩の代作を行っていて、
本作品のほかに
「角男」「あ・てる・てえる・ふいるむ」が
横溝の乱歩名義発表作品です。
それぞれ何か事情が生じて、
雑誌「新青年」で乱歩の編集者であった
横溝が代わりに執筆していたのです。
その後、乱歩と横溝それぞれから
同時期に真相の発表があり、
現在では三作品が
横溝作となった経緯があります。

そう思って読み返してみると、
三作品とも
横溝らしい粘っこい文章が少なく、
鋭利で英知な
乱歩の文体の香りがします。
器用な横溝のことです、
設定だけでなく文体まで
乱歩の雰囲気を醸し出そうとした
形跡がうかがえます。

大正後期から執筆活動を開始し、
共に日本の探偵小説を牽引してきた
二人の巨人。
深い交流をしてきたことが
知られていますが、
その作品も「交流」していたのです。

(2019.5.5)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2024.2.7)

〔「横溝正史ミステリ短篇コレクション
  ①恐ろしき四月馬鹿」〕

恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

〔関連記事:横溝ノンシリーズ作品〕

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